医療費控除は所得税を節税出来る場合があります
毎年1月になると、所得税の確定申告で還付を受けようとしている方や、所得税を納税する予定の方は、自身がどれだけ税金が戻ってくるのか、または、税金をどれだけ支払わなければならないのかが気になってきます。
確定申告期限までに、前年の所得を計算して、どのような控除が受けられて、そして、どれだけの税率で税金の計算するのかを試算している方もいらっしゃると思います。
そして、その控除を受けられるものとして、多くの方が思い浮かべるのが、
「医療費控除」
です。
この医療費控除のイメージとしては、医者や病院などで診察を受けた場合や、薬を処方された場合で、その年の1月から12月までに支払った医療費の総額が一定額以上の場合には、医療費控除として、所得から控除出来、その分だけ所得税を少なく納める、つまり、節税ができると考えられています。
ところで、この医療費控除ですが、知っておいた方が良い事や間違えやすい内容があるのをご存知でしょうか。
そこで、今回は、この医療費控除の適用を受ける場合の注意点についてご案内します。
医療費控除の仕組みについて
まず、注意点のご説明の前に、そもそも、医療費控除とはどういう制度なのかを確認しましょう。
この医療費控除とは、その年の1月1日から12月31日までの間に医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えるときは、所定の方法により計算された金額を所得から控除できるという制度です。
医療費控除の適用を受けられるのは、自分自身の医療費だけとは限りません
医療費控除を受ける際に誤りやすい一つが、
医療費控除は、自分だけの医療費しか控除できない
と考えてしまうことです。
医療費は自分だけでなく、家族や親類なども支払っている場合があります。
そして、医療費控除出来るのは、自分自身の分だけで、他の人の分は受けられないと考えてしまう方も一部いらっしゃいます。
しかし、実際はそうではなく、自分以外の方でも医療費控除を受けることが出来る場合があります。
そして、それは、次のよう
「自己又は自己と生計を一にする配偶者やその他の親族」
が対象になります。
そのため、生計を一にしている配偶者の方の分やお子様・親御様・親類についても合算できるのですがここでも注意が必要です。
生計を一にしていなければ、配偶者やその親族であっても医療費控除の対象に含めることは出来ません
ここで、生計を一にしているとはどういうことなのでしょうか。
国税庁ホームページでは、次のように記載されています。
生計を一にするとは
”日常の生活の資を共にすることをいいます。
会社員、公務員などが勤務の都合により家族と別居している又は親族が修学、療養などのために別居している場合でも、1生活費、学資金又は療養費などを常に送金しているときや、2日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には他の親族のもとで起居を共にしているときは、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。”
このように、自分自身以外にも、家族や親類を含める事が出来る場合があるので、自分自身の確定申告で誰の分までも医療費控除の対象に含める事が出来るのかを事前に確認するようにしましょう。
実際に支払った金額が医療費控除の対象になります
医療費控除といっても、その年にかかった医療費が全て対象となるわけではありません。
あくまでも、
その年の1月1日から12月31日までの間に「実際に支払った」医療費が対象となるのです。
そして、その年の医療費でも未払いのものがあり、その未払い分を翌年に支払った場合には、その翌年分の医療費として集計されることになります。
また、医療費控除を受けることが出来る基準となる医療費の総額は「10万円」と一律に決まっているわけではありません
よく、
「私は今年の医療費が10万円に達していないから、医療費控除は受けられない」
というようにお話をする方がいらっしゃいます。
しかし、実際には、
「その年に支払った医療費総額が10万円に達していなくても医療費控除を受けられる場合がある」
のです。
これは、医療費控除の金額が、次の算式によって決まっているからです。
(実際に支払った医療費の合計額-Aの金額)-Bの金額
A:保険金などで補填される額
これには、次のような金額が該当します。
生命保険契約などで支給される入院費給付金
健康保険などで支給される高額療養費
出産育児一時金
等
※保険金などで補てんされる金額は、その給付の目的となった医療費の金額を限度として差し引きますので、引ききれない金額が生じた場合であっても他の医療費からは差し引きません。
B:10万円
そして、ここでポイントが、
その年の総所得金額等が200万円未満の人の場合には、このBが、
総所得金額等(※1)×5%
となります。
(※1)総所得金額等とは、純損失、雑損失、その他各種損失の繰越控除後の総所得金額、特別控除前の分離課税の長(短)期譲渡所得の金額、株式等に係る譲渡所得等の金額、上場株式等に係る配当所得の金額、先物取引に係る雑所得等の金額、山林所得金額及び退職所得金額の合計額をいいます。
そのため、収入ベースとは違うので、例えば、給与収入のみの方で、所得が180万円であれば、単純計算すると、
180万円×5%=9万年
となり、10万円に達していなくても、大丈夫なのです。
よって、次の前提で医療費控除額を計算してみると、
給与収入のみで所得金額:180万円
その年に支払った医療費総額:96,000円(保険金額の補填ゼロ)
の場合には、
(96,000円ーゼロ)ー(※2)90,000円=6,000円
その年の総所得金額等が200万円未満のため、10万円ではなく、総所得金額等である180万円×5%=90,000円
この例のように、医療費が10万円に達していなくても、6,000円が医療費控除額として算出されるのです。
医療費控除額から所得税がどれだけ節税できるのか
ところで、先程の例でいうと、医療費控除額が6,000円だとすると、この6,000円分の税金を減らす事が出来ると考えてしまう方もいらっしゃいますが、実は、そうではありません。
所得税の計算にあたっては、課税される所得金額、いわゆる課税所得金額に対して、一定の算式で計算する事により、所得税額を計算します。
そして、この課税所得金額は、
所得金額ー所得から差し引かれる金額
という算式から計算され、先程の例でいうと、
所得金額:180万円
所得から差し引かれる金額:6,000円
となり、
課税所得金額は、
180万円ー6,000円=1,794,000円
と導かれ、この1,794,000円から、所得税を算出するのです。
ちなみに、この課税所得金額で、令和1年分所得税を計算すると、
1,794,000円×5%=89,700円
となります。
(実際には、ここからさらに所得税を控除する場合や、復興特別所得税を別途計算する等の処理が必要になります)
重ねてになりますが、医療費控除の金額分の所得税を減らす事が出来るというわけではありません
ので、ご注意下さい。
医療費控除の5つの注意点をおさえるようにしましょう
医療費控除の際に、今回は次の5つの注意点をご案内しました。
1、医療費控除の適用を受けられるのは、自分自身の医療費だけとは限りません
2、生計を一にしていなければ、配偶者やその親族であっても医療費控除の対象に含めることは出来ません
3、「未払いの医療費」は医療費控除の対象になりません
4、医療費控除を受けることが出来る基準となる医療費の総額は「10万円」と一律に決まっているわけではありません
5、医療費控除の金額と同額の税金が控除されるわけではありません
つきましては、令和1年分の所得税の確定申告で医療費控除の適用を受ける場合には、これらの注意点等を踏まえて手続きをするようにしましょう。